Up 「モンスーン」の意味 作成: 2024-05-12
更新: 2024-05-12


    「モンスーン monsoon」は,日本語で「季節風」と訳される。
    日本人は「季節風」のことばを聞いて,なんかわかった気になる。
    日本人には「冬は北から冷たい風,夏は南から熱い風」の固定観念があり,この固定観念から,「季節風とはこの種のものだ」「季節風は地域によって違いがあるのだろう」調で,わかった気になってしまうのである。
    そしてこんなふうに理解した「季節風」を,「モンスーン」のことだとする。

    しかし「モンスーン」は,つぎのように使われることばである:
      Wikipedia "Monsoon"
    Usually, the term monsoon is used to refer to the rainy phase of a seasonally changing pattern, although technically there is also a dry phase.
    The term is also sometimes used to describe locally heavy but short-term rains.


    "rainy phase of a seasonally changing pattern" と "locally heavy but short-term rains" の2つの意味は,どうつながって「モンスーン」の語になっているのか?
    この「モンスーン」の意味は,「例の雨」である。

    東京は,猛暑日の夕方にゲリラ豪雨が発生する土地柄である。
    このゲリラ豪雨は,「モンスーン」ということになる。


    「モンスーン」は,「雨をもたらしている大気の位相」を主題化しようとすることばである。
    雨は,寒気と暖気が出会うことで発生する。
    したがって,「モンスーン」の主題は,「寒気と暖気の出会いを導く大気の位相」である。

    その位相は,つぎの2タイプになる:
      W. 暖気を,寒気に向けて流す
      C. 寒気を,暖気に向けて流す
    そして流れは,つぎの2タイプになる:
      h. 水平方向
      v. 垂直方向


    h. 水平方向
    寒気と暖気が出会う面を,前線面と謂う。
    前線とは,この面と地表面の交線のことである。

    暖気が寒気に向けて流れるときの前線を,温暖前線と呼ぶ。
    寒気が暖気に向けて流れるときの前線を,寒冷前線と呼ぶ。
    そこで「モンスーン」のことばが主題化しようとする「寒気と暖気の出会いを導く大気の位相」は,この場合,「温暖前線・寒冷前線をつくる大気の位相」である。

    この位相の基本は,「上昇渦気流 (低気圧) は,周りの大気を吸い寄せる」である。
    このとき寒気側・暖気側があると,つぎのように,渦の回転に沿って寒気流と暖気流が生じる:
    この寒気流と暖気流は,それぞれ寒冷前線と温暖前線をつくり,雲を発生させ,さらには雨をもたらす。

    天気図に描かれる前線は,強い前線である。
    強い前線は,上昇渦気流 (低気圧) に加えて,下降渦気流 (高気圧) がつぎの配置で並ぶとき,発生する:


    v. 垂直方向
    暖気が上昇すると,この中の水蒸気が上空の寒気に冷やされて,水になる。
    見た目には,雲が発生する。
    ひじょうに強い上昇流だと,積乱雲を発生し,これの下は集中豪雨になる。

    上空の寒気の垂直下降は,下方の暖気の中の水蒸気を冷やして,雲を発生させることになる。
    ただし,「上空の寒気の垂直下降」なるものが有ればの話である。
    実際のところ,これは無い。


    気象学の教科書には,「モンスーン気候」のことばが出てくる。
    このことばは,無意味である。
    「モンスーン」とは "rainy phase of a seasonally changing pattern" のことであるから,「モンスーン」を要素としない気候など存在しないのである:
      降水は,どこにもある (サハラ砂漠にも)
      四季は,どこにもある (極にも赤道にも)

    では,気象学の教科書にはなぜこのことばが出てくるのか?
    それは,惰性からである。
    学界は,用語を惰性で継承し,そして継承されてきた用語の意味を改めて問うことをしない。
    無意味な用語は,使われなくなって自然消滅するという形でしか,無くならないのである。

    無意味な「モンスーン気候」の出自は?
    それは,気象学の机上論の分科になっている「大気理論」──特に「大気循環論」──ということになる。
    机上論だから空理空論になるということはないが,気象学の「大気理論」は空理空論である。