Up 清水精一『大地に生きる』からの引用 作成: 2025-02-05
更新: 2025-02-05


    異界のことは,異界に棲む者の語りか,外から異界に入った物の見聞録によって,知るのみである。
    外部者が観察から異界を語るのは,ひどい間違いをおかすことになり,著しくは「語らない方がマシ」ということになる。

    こういうわけなので,例えばアイヌ学は,ジョン・バチェラー砂沢クラの著作がもし無かったら,どんなにひどく虚偽で満たされたことかと,空恐ろしくなる。
    そして,乞食学の場合だと,アイヌ学のバチェラーに相当する人物として,清水精一がいてくれた。

    乞食をその共同体の内側から語ったものは,清水精一著『大地に生きる』(1934) の他には無い。
    よって,いま「乞食」を知ろうとしてつくるテクストは,『大地に生きる』からの引用で構成するのみである。
    我を入れようとすると,間違う。

    本テクストは,乞食学として,これをつくる。
    本テクストは,『大地に生きる』の中の「乞食」の論述を,構造的に構成する。
    この作業が,本テクストのすべてである。


    清水精一著『大地に生きる』
    • 初出:同朋園出版部, 1934
    • 谷川健一[編]『日本民俗文化資料集成・1 サンカとマタギ』, 1989, pp.155-292.
    • 『サンカとともに大地に生きる』, 河出書房新社, 2012.